27歳女、負け組なめんなよ!

幸せになってみせる!

小説 チョコレート⑥

佐々木健太

 

付き合っている彼女である橘さんが先週から一人暮らしを始めた。

お互い実家暮らしだったので、新しい楽しみができて

なんだかワクワクしている。

 

今日は橘さんの家で、家具を組み立てるのを手伝うことになっている。

橘さんに会うのは一週間ぶりだ。

橘さんは転職もして引越しもして大変な一週間だっただろう。

 

橘さんの家に着くと、いつもの笑顔で迎え入れてくれた。

ああ、この顔が好きだ。とても落ち着く。

将来、毎日この顔に迎え入れてほしいと妄想してしまう。

 

部屋に入ると、思わず橘さんを抱きしめてしまった。

華奢な彼女を抱きしめると、愛おしい気持ちがこみ上げてきて

なんとも幸せな気持ちになる。

 

そんな気持ちもつかの間、橘さんの様子がおかしい。

お腹を曲げて息が乱れて苦しそうだ。

「ど、どうしたの?」動揺して少し声が上ずってしまう。

橘さんはただ苦しそうで、こちらに体重をかけてきた。

体調が悪かったのだろう、会ってすぐに気づくことのできなかった自分に腹が立つ。

少しの間、そのままの体制でいた橘さんだが、

「ごめんなさい、ちょっとお腹痛くて」と小さな声で教えてくれた。

 

そういえば橘さんはちょうど1ヶ月くらい前に生理だと言っていたのを思い出し、

そういうことだと理解する。

 

「大丈夫?ちょっと横になる?」

辛そうな彼女に何もしてあげられない自分に歯がゆさを感じつつ、

できるだけのことはしてあげたいと思う。

 

「ううん、平気。いまちょっと波が来ちゃっただけ。」

橘さんは笑顔を見せてくれたが、顔色が悪く汗も浮かんでいるようだった。

とても平気とは思えない。

とりあえずベットに座らせてみるも、橘さんはお腹を抱えてかなり辛そうだ。

顔色も真っ青で息も乱れている。

男には分からない痛みと戦っている橘さんにひどく申し訳なさを感じる。

 

そんなときでも無理をして僕をもてなそうとしてくれる橘さんの健気さに

僕はときめいてしまっている。

橘さんがこんなに辛そうなのにときめいてしまってなんだか申し訳ないけれど。

 

しばらく腰をさすっていると、橘さんの呼吸がだいぶ落ち着き、

表情も少し和らいだようだ。

顔をあげてお礼を言ってくれた。

ああ、ぼくは橘さんが好きすぎる。

 

「少し落ち着いた?お茶は僕が入れるね。」

橘さんの顔を見ていると、好きという感情があふれ出てしまいそうで

思わず立ち上がり、キッチンへ向かう。

 

すると橘さんもゆっくりと立ち上がりついてきた。

「今日は私がおもてなししなきゃいけない日なの。」

といって僕がお茶を入れるのを止めてくる。

 

「そんな日はないよ。橘さんの体調が心配だよ。」

僕がそういうと、橘さんは嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

小説 チョコレート⑤

橘 貴子

 

一人暮らしを始めて一週間。待ちに待った週末。

職場も変わってクタクタな私にさらに生理という苦難が訪れた。

今日は佐々木さんが部屋に遊びに来てくれる予定だ。

 

組み立て式のダイニングセットをネットで購入したので、

その組み立てを手伝ってもらう予定で、

お礼に手料理を振舞おうと意気込んでいたのだが、

朝起きた瞬間に、腹痛とわずかな吐き気で絶望した。

 

生理痛は毎月酷いわけではないが、家と仕事が両方変わり、

環境の変化が体にストレスをかけたのか、どうやら今月は酷いようだ。

 

顔色の悪い自分は見られたくないのだが、それでも佐々木さんに会いたくて

体調のことは言わず、このまま佐々木さんが来るのを待つことにした。

もし佐々木さんに体調が悪いと連絡したら、

じゃあまた今度と言われてしまうのが怖いのだ。

 

ギリギリまでベットの中で過ごし、とりあえず腹痛に耐える。

佐々木さんに会うのだから、綺麗にしなきゃと分かっているのだが、

なかなかベットから出られない。

 

必死で腹痛に耐えるも、今度は吐き気に耐えられなくなり

あわててトイレに駆け込む。

少しだけ吐き、腹痛は治らないが、そのまま気合で身支度をした。

 

なんとか着替えてメイクを施したところで、佐々木さんがやってきた。

 

「いらっしゃい」体調がバレないように笑顔で迎え入れる。

「おじゃまします」と佐々木さんも嬉しそうにやってきた。

 

部屋に入ってすぐ、ハグしてくれる佐々木さん。

あたたかくて安心して心地よかった。

しかし容赦なく腹痛がやってきて、体制が保てない。

佐々木さんの胸に頭を押し付け、お腹をくの字に曲げてしまった。

 

「ど、どうしたの?」焦る佐々木さん。

私は一瞬声が出せなくて、佐々木さんに体重を預けたまましばらく黙ってしまった。

下腹がどうしようもなく痛み、泣きたくなる。

 

すこし経ってようやく

「ごめんなさい、ちょっとお腹痛くて」と小声でささやく。

このまま黙って過ごすのはもはや無理だった。

 

前回の生理の時期を知っていた佐々木さんは、

その一言で生理だと理解してくれた。

「大丈夫?ちょっと横になる?」

 

「ううん、平気。いまちょっと波が来ちゃっただけ。」

恐らく酷い顔色だと思うが、無理やり笑ってみた。

「ほんとに?無理してない?」

肩を抱いてくれてベットに座らせてくれる佐々木さん。

優しさが嬉しいのに、腹痛が喜ぶ余裕を与えてくれない。

 

座ったはいいが、まっすぐな姿勢が保てなくて

お腹を抱えて背を丸めてしまう。

ああ、こんな醜い姿、佐々木さんに見せたくないのに。

 

「来てくれたのにいきなりこんな状態でごめんね、お茶入れるね。」

とりあえず佐々木さんにお茶でも出さなきゃと思い、

力を振り絞って立ち上がろうとするが、腹痛がそれを許してくれない。

「うぅ。。」情けない声が出ただけで全く動けない。

どうしようと焦っているとさらに酷い腹痛の波が来る。

 

「だいぶ無理してるね」佐々木さんが隣に座って腰をさすってくれる。

温かくて気持ち良い。

そうしてしばらくさすってもらっているうちに落ち着いてきた。

「もう大丈夫。ありがとう」

顔を上げてお礼をいうと、

今日はじめて佐々木さんの顔をちゃんと見れて、幸せを感じた。

 

 

 

小説 チョコレート④

橘 貴子

 

来週から実家を出て一人暮らしをすることになった。

佐々木さんとの付き合いは半年を越えてだいぶ落ち着いてきたように思う。

今は浮気の心配もなく、ただ二人でどこかへ出かけることが楽しい。

 

ただ、私は27歳。

そろそろ結婚したい年頃なのだが、

同い年の佐々木さんはそんなに意識はしていないように思う。

やはり結婚を意識させるためには家事ができることを見せなければと考えて、

一人暮らしを決心した。

今まで27年間実家で暮らし、家事もまともにやってこなかった私にとっては

一大決心である。

お金はかかるが、佐々木さんとの結婚のためには必要な出費だと考えている。

 

一人暮らしをするにあたり、やはりお金が必要となるため転職もした。

そのため佐々木さんとの職場恋愛は終了した。

特にバレることも無く、無事に終えることができてほっとしている。

 

 

こう書いていると随分と打算的な女となってしまったが、

佐々木さんが好きという気持ちは意外にもきちんと持っている。

 

付き合って半年経ったが、変わらずに温かい人だ。

いつも私の体調を気遣ってくれるし、デートの準備もきちんとしてくれる。

どうして佐々木さんがこんな私を好きでいてくれるのかは謎だが、

この人を逃したら私は一生結婚できないのではないかと思っている。

 

一人暮らしをして、そこに佐々木さんが遊びに来て、

徐々に半同棲のような形に持ち込みたいと私は思っている。

そのために、一人暮らしには少し広い1DK の部屋を選んだのだ。

 

 

小説 チョコレート③

橘貴子

 
 
島木さんと山本さん、そして私の恋人である佐々木健太さん。
3人と私で夕食会。
私と佐々木さんが付き合っていることは、島木さんと山本さんはもちろん知らない。
 
特に恋愛の話をする人たちでは無いので、大丈夫だと勝手に安心していたのだが、
ついに佐々木さんの彼女の話になってしまった。
 
「佐々木さん、彼女ができたって聞きましたよ」
始まりは山本さんのこの一言から始まった。
この山本さんが言っている彼女とは佐々木さんが以前に付き合っていた彼女のことで、
看護師の人だと聞いている。
 
すでに佐々木さんとその看護師の方は別れた(と聞いている)のだが、
周囲にはまだそこまで伝わっていなかったようだ。
 
「いやいや、いないですよ」と佐々木さんはうやむやに答えていたのだが、
島木さんが追い打ちをかけるように
「佐々木さんは愛人がたくさんいるんですよ」という。
 
「僕、聞いてますよ。
佐々木さんはいろんな女の人と歩いているところを目撃されてます。」
 
え。そうなんだ。なんだか少しショック。
あれ?ひょっとして私も愛人なのかな。
ふっと心に影が差す。
 
「何人の看護師と付き合ってるんですか」
島木さんの声がなんだか遠く聞こえるようだ。
 
「愛人とかいないですよ。ゼロ人です。」
佐々木さんは笑いながら否定していたれど、なんだか私の心は晴れない。
 
私が仕入れた情報では看護師の人と以前付き合っていたが
金銭感覚の違いから関係は終わっているはずだ。
この情報は信じられるところから入手している。
 
でも愛人については、、、聞いていなかった。
佐々木さんはそんなことしない人だと信じているし、
もちろん島木さんの冗談なのだが、
それでもなんだか傷ついてしまった。
 
こんなことで、こんなに簡単に傷ついてしまうなんて。
自分の心の弱さに落ち込む。
 
その場は笑っていられた気がするけど、
大丈夫だったか自信がない。
とりあえず手は震えてしまっていたと思う。

小説 チョコレート②

橘貴子27歳

契約社員

 

先日、彼氏ができた。

佐々木健太、26歳。誕生日が私のほうが先だけれど、学年は同じの彼。

職場で出会って、同僚の薦めもあって、彼と付き合い始めた。

 

背が高くて、体格はがっしりしていて、丸顔で、いつも笑っている。

穏やかな印象を受ける人だ。

 

実は付き合う前から佐々木さんのことが気になっていた。

 

些細なことだが、こんなことがあった。

彼はダイエットをしてだいぶ痩せたのだが、少し前までは太っていた。

そんな佐々木さんが、職場の椅子から立ち上がろうとしたとき、転んだのだ。

ドシンという大きな音が職場中に広まって、皆が一瞬顔を上げた。

私はその瞬間を隣で見ていた。

彼が照れた顔で立ち上がったそのとき、なんともいえない暖かい気持ちになったのだ。

 

よく分からないが、佐々木さんの照れた顔がとても愛おしく感じた。

周りが皆、笑顔になった。その一瞬で、周りの空気が暖かく、楽しくなった。

そのとき、私はなんだか良い人だなとぼんやり思ったのだ。

 

職場で、しかも同じチームに所属している以上、

絶対に知られてはならない関係である。

 

そんなに接触することは無い私たちだが、すれ違うことは度々あるわけで、

なんだか少し緊張してしまう。

 

付き合い始めて、まもなく1ヶ月というところだが、

少し危険な出来事が、明日あって、今私はそれがとても心配だ。

 

私の先輩であり、同じ仕事をする山本綾香さんが契約社員から正社員となることが決まった。

それのお祝いをするのだが、なんとメンバーは4人でうち2人は私と佐々木さんである。

 

佐々木さんの同期であり、私も一緒に働いた経験のある、島木さん、29歳。

職場の情報通で、コミュニケーション能力に長けており、話がとても楽しい人だ。

ただ、島木さんは話を面白くしすぎるところがあり、話は半分くらいで聞いたほうがよい。

 

その島木さんと、山本さん、そして佐々木さんと私。

この4人で飲み会をすることになっているのだ。

 

山本さんは既婚者で落ち着いた人なので、恋愛の話などはあまりしないのだが、

勘の鋭い人なので注意しなければならない。

島木さんは恋愛事情に興味はなさそうだが、彼に知られてしまったら、

職場中に知られてしまうことになるだろう。しかも、話は大きくなって。

 

やっかいなことにならなければよいのだが。

 

 

小説 チョコレート①

こんばんは、Pです。

 

久しぶりに小説書いちゃいます。

サラリーマンとOLの社内恋愛物語。

地味ー笑。

 

 

 

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佐々木健太。26歳。会計士。

大手監査法人で働き始めて3年が経った。少しだけど、自分の判断の必要な難しい仕事もできるようになり、仕事は楽しくなってきた。

実家に住んでいて自立はできていないが、忙しいさを理由に特に気にしないことにしている。

 

僕は今、職場の同い年の女子に恋をしている。彼女の名は橘貴子。彼女は僕たちをサポートしてくれる契約社員のアシスタントだ。僕たちが面倒な仕事を頼んだりしても、笑って引き受けてくれる。

 

橘さんはアシスタントという立場なのだが、実は有名大学を卒業した頭の切れる女性だ。何故、契約社員という形態の仕事を選んだのか本当に謎なのだが、本人は特に気にしてなさそうである。

 

橘さんは1年ほど前にうちの会社にやってきた。その前は、大手メーカーの財務部でバリバリ仕事をしていたらしい。風のうわさで聞いた話では、異例の速さで幹部候補の研修生に選ばれたことにより、周りの同期の嫉妬を買いずいぶんといじめられてしまったようだ。

 

僕には信じられない。彼女が優秀だったことではなく、彼女をいじめる輩がいるということがだ。僕だったら絶対に守ってみせる。橘さんをいじめる奴なんて、この世の中で最も悪い奴だ。無期懲役の刑だろう。

 

橘さんの見た目は美人ではないが、清楚な感じだ。くりっとした目、長い黒髪、華奢な体。なんていうか、僕はとにかく、彼女を守ってあげたいのだ。

 

橘さんと僕が話すことはあまりない。仕事上、同じチームにはいるのだが、僕から仕事を頼むことはほとんどない。僕のチームにはアシスタントが二人いて、橘さんともう一人、山本綾香がいる。橘さんより2つ年上で新婚の彼女が僕の担当となっており、僕は基本的に山本さんに仕事を頼むことになってるのだ。

 

同じチームにいるのだから、橘さんに仕事を頼むことも勿論可能なのだが、僕が橘さんに仕事を頼むことによって、橘さんと山本さんとの関係が悪化してしまうのは良くない。

 

僕は、とても、橘貴子さんが、好きなのだ。

どんなところが、と聞かれると困るのだが、橘さんの全てが好きだ。

橘さんの明るい声、控えめなたたずまい、上品な言葉使い、なんでも笑ってくれるところ、仕事にドライなところ、子犬のようなくしゃみ。

 

橘さんの全てが輝いて見えるんだ。橘さんが登場すると僕の頭の中でお花畑が広がり、なんとも心地よい音楽がながれ、目の前が急に明るくなる。

 

ほんとに、僕は、恋をしている。

 

 

 

 

 

 

手越くんの夢

みなさんこんばんは、Pです。

今日は私の見た夢について。

くっそつまんない夢だけど、なんだかとっても幸せでした。

多幸感あふれるあの感じが忘れられなくて、書かせてください。

 

 

私は売れてないフワフワの衣装を着たアイドル。

手越くんはもちろんスーパースター。

私と手越くんは付き合っていて、それはみんなが知ってること。

でも否定はしてるよっていう設定。

 

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彼は歌っている。気持ちよさそうに歌っている。

せつなさを感じさせるあの歌声。

私は、あの声に惹かれたんだ。

 

橘 貴子。客席の後部でじっと見つめている私は、なんだか思い出に浸るような気持ちで彼を眺めていた。歌に心を奪われている訳でもなく、どことなく心ここにあらずだった。彼は今、何を思って歌ってるんだろう、とふと思ったが、きっと私のような凡人には分からないだろうとすぐに考えるのをやめた。

 

歌が終わり、私は舞台裏に急いで向かう。出演者に花を渡すという一瞬で些細なことではあるものの、舞台上での私の役割があるのだった。彼は今、舞台裏にいるはず。会えるかもしれないと思ったのも急いでいる理由だった。

 

舞台裏への扉を開けると、彼はすぐそこにいた。手越祐也

「会えたね。」彼はそういって小さく笑った。

ああそうだ。この顔だ。彼が笑うと彼の周りが虹色に輝くように思える。

この顔が私の心を乱すんだ。

「会えたね。」私も彼の言葉を繰り返し、冷静な振りをして、そして同じように小さく笑った。

隅にあった小さなテーブルをはさんで、私たちは向き合って座った。

「何を考えてたの?」唐突に私は彼に聞いた。知ることはできないと諦めつつ、それでもやはり知りたかった。彼が何を考え、何を感じ、何を思って歌っているのか。

「なんだろね。貴子の事とか?」彼は簡単にはぐらかした。

「恋愛の歌じゃないのに?」真面目に答えてくれないことなんて分かっていたけど、なんだか悔しくなって口を尖らせてみる。

彼はぐっと顔を近づけてきた。急に顔が近くなって私は照れくさくなってしまう。

そんな私をみて彼はふっと笑った。寒く厳しい長い冬の終わりを告げる春風ような微笑みだった。

 

なんとなく見つめ合っていると、カメラを持った男が一人近づいてきた。

「週刊芸能です。お写真撮らせていただきました。事務所のほうに持ち込んだほうがいいですか?」言葉遣いは丁寧なものの、にやにやした感じの不快なしゃべり方をする男だった。彼は一度もカメラの男を見なかった。世界に存在しないかのように無視を決め込んでいた。私はちらっとカメラのほうを見て、怖くなって彼に助けを求めた。

「祐くん。まずいよ。」

彼は私の困った顔を見てため息をついた。そしてカメラ男には一瞥もくれずに言った。

「載せてくださいよ。俺ら、隠してないじゃないですか。載せて、それでもうほっといてください。」

その後カメラの男が私に聞こえないように彼だけに何か言ったようだった。

彼は不機嫌そうな顔をしていたが、彼も何か一言言ってカメラ男は去っていった。

 

私はしばらく動けなかった。彼が変な言い訳をしなかったことが何故だか妙に嬉しく思ったのだ。胸が幸せでいっぱいになって彼の顔を眺めていた。しかし、一瞬でその感情は消え去った。気がついたのだ。このままではまずい。彼とカメラ男は何かしら取り引きをした。この後必ず彼に災難が降りかかることは目に見えていた。

「祐くん。私、行ってくる。」

言うと同時に飛び出していた。彼がどんな顔をしているかも見なかった。

とにかくカメラ男を追わなければ。そう思った。

 

走る。走る。走る。長い廊下に他の出演者たちが出番を待っていた。

その間を私は走る。私はフリルのたくさんついたいかにもガーリーな衣装を着ていた。マネージャーからあてがわれた衣装で、私自身も気に入っていたものだ。

走っている間、なんだか自分に酔っていた。愛する男のために蝶のようにひらひらと走る私。周りの視線が私に集まっていることを感じた。手越祐也の女。私の肩書きは完全にそれだったが、アイドルとしての自分に特に期待していなかった私としては満足だった。

 

廊下を走っている途中に知っている顔を見つけた。ああ。あれは松本潤

私はエキストラのような一瞬しか映らない脇役で松本潤のドラマに出たことがある。

その縁もあって、なぜだか彼の顔がはっきりと良く見えた。心配そうな顔に見えた。

 

 

しかし今はカメラ男を追いかけなければ。

松本潤を素通りし、また走る。カメラ男は見つからない。

とそこに、高校のときの友人がたたずんでいた。そのまま通りすぎようとしたのだが、彼女が口を開いた。

「手越くん、今日歌ってたね。」

すこしはにかんで彼女は言った。私が付き合っていることを知っていて、話しかけてくれたのだろう。なんと答えればいいか分からなかった私は、ただ

「うん。」とだけうなずいて、彼女を後にした。

 

ああ。もうカメラ男は見つからない。もうだめだ。一度客席の方へ戻ろう。

そう思ったとき、ひどい眩暈が私を襲った。ここ最近は体調も良かったはずなのに。

立っていられないほどではなく、自分の足で歩けたので近くのベンチに座った。

頭の位置を低くしてめまいが収まるのを待つ。

ばかみたいだ。私なんかが手越祐也の人生に影響を与えることなど無いのだ。

あのカメラ男が何かしたとして、彼に被害が与えられるかもしれない。

しかし、手越祐也はそんなことで堕ちるような男じゃない。

彼は彼の人生を、全うするだけ。彼はいつでもどこでも黄金の輝きを放つ。

 

なかなか眩暈が治まらず、しばらくそこで頭を下げていると、あの声が聞こえた。

「貴子?」ああ、なんて優しい声。どうしてここにいるの。だめな男ね。

少し顔を上げた私の顔色を見て、彼は焦ったようだった。

「貴子?!どうした?!」焦った彼がたまらなく愛おしかった。なんて可愛い男なんだろう。私は彼を落ち着かせようと笑顔を見せたが、彼は余計に心配になったようだったので、その笑顔はひどい顔だったに違いない。

「大丈夫。ちょっと眩暈。少し走ったら血圧が下がっちゃったみたい。」

少し話しただけで息が切れる。こんな姿をさらしてしまうなんて。

彼は隣に座って肩を抱き、私の顔を覗き込む。

「横になる?」以前にも彼の前で同じような状態になったことのあるため、彼は対処法を知っている。

「いい。戻って。私はここで少し休んで治ったら戻る。」

本当に少しだが楽になってきていた。彼はじっと私の顔を見てパッとどこかへ駆け出していった。

 

私も戻らなければ。自分が抜けても問題ないことは知っていた。ただ、だからといって行かないというのは嫌だった。ゆっくり立ち上がると、すこしふらついたが、壁に手をつけばなんとか歩けた。

 

少し歩くと、また眩暈がひどくなってきて、その場にしゃがみ込みそうになる。

やっぱり今日はもう無理だ。マネージャーに連絡しなくては。そう思ってスマートフォンを取り出したが、目がかすんで画面がよく見えない。おまけに画面がやけに明るく感じ頭痛を誘発される。これはまずい。誰かに連絡しなくては。誰か。誰か。

 

つづく