小説 チョコレート⑦
橘 貴子
佐々木さんがお茶を入れてくれている。
ダイニングで椅子に座らせてくれたのでおとなしく待っていることにした。
いったん腹痛は落ち着いたが、貧血気味で体が重い。
うまく話せないし、うまく笑えなくて、せっかく来てくれた佐々木さんに本当に申し訳がない。
「はい、どうぞ。」
佐々木さんが紅茶の入ったマグカップを渡してくれた。
「ありがとう。」
受け取ったマグカップが温かくて、心まで温かくなっていく。
紅茶の湯気越しに心配そうな佐々木さんの顔が見えて、
なんだか幸せな気持ちになって、ふっと笑ってしまった。
「なに?大丈夫なの?少しは楽になった?」
あ、佐々木さんも笑顔になってくれた。
「うん、ありがとう。」
うなずいたのはいいのだけど、やっぱりお腹が痛くて、情けない気持ちになる。
再び背を丸めて黙ってしまった私の隣に来て、また腰をさすってくれる。
少し紅茶を飲むと、今度は吐き気がしてきて焦る。
どうしよう、えづいてしまいそうだ。
吐きそうなところなんて、見られてしまったら絶対引かれる。
我慢我慢と思って何とか耐えるものの、血圧が下がってきたのか
視界がチカチカしてきて、吐き気が一段と高まる。お腹も痛い。
どうしようどうしよう。我慢できない、どうしよう。
思わず背中が波打ち、あわてて手で口を押さえる。
「ト、トイレに。。」
慌ててトイレに行こうとするも、低血圧のせいでうまく立ち上がれない。
佐々木さんに支えてもらい何とかトイレに行く。
ダメだ、吐いてるところだけは絶対に見られたくない。
必死で佐々木さんをトイレの外に押し戻し、
「向こうで座ってて。。」なんとか声を絞り出した。
トイレのドアを閉めるとすぐにしゃがみ込み、思いっきりえずく。
吐くものがないのか、実際には吐いていないのだがひたすらに気分が悪い。
えずいていると呼吸も落ち着かなくて苦しい。
しばらく大きく深呼吸し続けて、なんとか呼吸を整える。
吐き気は治らないが、ピンチは脱した感じだ。
なんだか酷く疲れてトイレの壁に体重を預けてぐったりしてしまった。
しばらくそのままでボーっとしていると、控えめなノックが聞こえて現実に引き戻される。
「橘さん?大丈夫?」